ある一言で、私は静かな少年になりました
From:山崎純平
草加のカフェより…
私は音痴です。
どれくらい音痴かというと、
カラオケの採点で60点くらいです。
えっ?
逆にどうやったら60点になるの?
そう思いますよね。
私も思います。
でも、出るんです。
60点が。
小学生の頃、私は自分が音痴だなんて、まったく思っていませんでした。
音楽の授業では、誰よりも大きな声で歌っていました。
無邪気。
純粋。
そして、なぜか自信満々。
先生から、
「山崎君は、元気があっていいですね」
と言われたことがあります。
私はそれを、
「山崎君は歌がうまいですね」
と勝手に翻訳しました。
都合のいい耳です。
そして合唱コンクール。

私はいつも以上に張り切りました。
体育館に響け、私の歌声。
届け、私の情熱。
そんな気持ちで、全力で歌っていました。
すると、隣にいた女の子が、ボソッと言いました。
「音痴だよね」
えっ?
今、なんて?
私の心に雷が落ちました。
しかも、その子は、ちょっと好きになりかけていた女の子です。
これはきつい。
そこからの私は、合唱コンクールで自分の存在を消すようになりました。
口は開ける。
でも声は出さない。
まるで水槽の中の金魚です。
パクパク。
パクパク。
歌っているフリだけは、だんだん上手になりました。
その後も、私はカラオケを避けて生きてきました。
学生時代の遊びといえばカラオケ。

でも私は断ります。
「ごめん、今日ちょっと用事があって」
用事なんてありません。
ただ、歌いたくないだけです。
そんな私が、数年後、妻と出会いました。
妻に音痴の話をすると、妻は笑って言いました。
「音痴でもいいじゃん」
えっ。
そんな世界があるの?
私は少し救われた気がしました。
そして初めて、妻とカラオケに行きました。
妻の前なら、昔みたいに歌えるかもしれない。
私は恐る恐る聞きました。
「歌える曲、少ないけどいいかな?」
妻は、
「全然大丈夫」
と言ってくれました。
なんて優しい人なんだ。
私は感動しました。
そして、選んだ曲はSMAPの
「世界に一つだけの花」。
この歌は、音痴でも歌いやすいと聞いたことがあります。
だから、昔こっそり練習していました。
最初は恥ずかしかったです。
でも、妻が普通に聞いてくれるので、だんだん楽しくなってきました。
あれ?
歌うって楽しいかも。
私は調子に乗りました。
そして、もう一度
「世界に一つだけの花」。
さらに、もう一度。
さらに、もう一度。
気がつけば、5回連続で歌っていました。
そのときです。
妻が真顔で言いました。
「歌える曲少ないのはわかるけど、5回連続、世界に一つだけの花はやめて」
はい。
また、私はシュンとしました。
小学生の頃の私が、心の中で体育座りをしていました。
でも、不思議です。
あのときの「音痴だよね」は、ずっと心に刺さっていました。
でも妻に怒られたこの出来事は、今では笑い話です。
同じ「シュン」でも、ぜんぜん違います。
誰に言われるか。
どんな空気で言われるか。
そこに愛があるか。
それだけで、心の受け取り方は変わるのだと思います。
私は今でも音痴です。
カラオケの点数も、たぶん60点です。
でも、妻の前では歌えます。
ただし、同じ曲は2回まで。
これが我が家のルールです。



